「飲みすぎはよくないです」(薬をやめる勇気が必要?)
「お酒を飲みすぎるのはよくない」ということはみなさんご存じのことと思います。飲みすぎるとアルコール毒性によりアルコール性肝硬変など、身体に障害がでることもありますし、酔っぱらって周りの人に迷惑をかけてしまうこともあります。
アルコールと同じく「お薬も飲み過ぎはよくない」とこのごろ強く思うのです。昔の私はそんなことを考えていませんでした。必要なお薬はきっちりと飲んでいただくことが大事で、たとえば「降圧剤は中止すると血圧が上がるので飲み続ける必要がある」と申し上げていました。
しかし最近では考え方が変わってきました。みなさまにどういう目的でお薬を飲んでいただくのでしょうか。
「苦痛や不快感を和らげる」というためにお飲みいただくことは理解できますが、その苦痛や不快感が無くなっても「飲み続ける」ということには問題が生じる可能性もあります。そのような状況で「また痛んだら困る」「不快感が再発したらいやだ」というお考えから、症状が消失しているにもかかわらずご本人の意思で飲み続けている方にときどき出会います。これは少なくとも間違っていると思います。一旦休薬してどのようになるのかを診るべきです。薬を中止しても痛みや不快感が出てこなければお薬を飲まなくてもいいと思いますし、もし悪くなればそのときもう一度考えればいいのではないでしょうか。痛み止め等のお薬は胃や腸、時には肝臓、腎臓などにも副作用がでることが知られています。人によって副作用の出現度合いは違いますが、私はそこそこ出現すると思っています。
もう一つ大事なことがあります。「ロキソニン、ロキソプロフェン」を代表とする一般的な痛み止めというようなお薬は、痛みを一時的に軽減させることはできても痛む原因を治すことはできません。ということは、痛み止めを飲んでいるうちに痛みが最終的に消失したとしたら、それは痛みの原因を自分の力、自然治癒力で治したということです。言い換えると痛み止めは、自分で治すための時間稼ぎをしているということです。
ちょっと違う痛みに関してのお話をします。いろいろな個所の関節が痛むなどして「関節リウマチ」などの難治性の病気と診断され、生物学的製剤のような難しいお薬をお飲みなられている患者さんは特に、痛みがぶり返すことをとても恐れられています。そのような難しいお薬を飲まなければ痛みが改善されなかったたいへんな経緯があるのでしょうから当然のことです。しかし生物学的製剤はいろいろな重篤な副作用があり、もしそれらのお薬が不要になっているならばできれば休薬したいところです。
また、精神的にしんどくなって「うつ病」と診断され、お薬により普段の生活を送れるようになった方にも同様のことがあります。お薬をやめてしんどくなったら困るのでお薬を飲み続けている方にも時々出会います。「薬をやめてまた元のようにしんどい時間が増えるのが怖い」「仕事をするのがつらくなると困る」などと考えられるのはその通りと思いますが、中には実は調子が良くなっているにもかかわらず抗うつ剤などを服用されているために、けだるさなどを感じてられる方もあります。中止した結果、なんとなく残っていた倦怠感や眠気が消失した方もいらっしゃいます。
不眠症ということで、睡眠薬を常用されている方もあります。「薬を減らしてみませんか?」と私が申し出ても「薬がなかった絶対に眠れない」とおっしゃる方も多いです。渋々ながらも同意していただいて減量、中止することができた患者さんも何人かおられます。「やめることができたわ」という感じで。「中止できるかもしれない」と患者さんが思い立って下さらない限り決して中止できないですが。
さらに話を進めます。
「130mmHgを超えたら高血圧」というようなテレビCMが流されていることもあり、「血圧が高いのは悪である」という風潮のある昨今です。
そのような中で初めてお会いした患者さんで降圧剤を飲んでいる結果、血圧が120mmHgぐらい、ときにはそれ以下まで下がっている方に出会うこともあります。複数の降圧剤を飲まれている方はもちろんのこと、1種類のお薬しか飲まれていない方でも経験します。そのような方はそれぐらいの血圧値で日常生活に不自由を感じてられないことも多いのでそれでいいのかもしれません。
しかし最近の私は日常診療で血圧を下げ過ぎないように気を付けており、降圧剤を飲まれている方は130mmHg以下にはならないように、140mmHgを超えていても多くの場合「さほど問題なし」と考えて対応させていただいています。130mmHg以下で正常だから飲み続けているという方は、本当にたくさんいらっしゃいます。その方がそれで日常生活に支障がないのであればいいのかもしれませんが、本当にそれでいいのでしょうか。お薬を減らす、中止すると血圧が140-150mmHg、ときにはそれ以上にまで上昇する場合もあります。そのときにその患者さんがどのように訴えられるかをお聴きしたいのです。
ところがお薬を減薬、中止して血圧が少々上がっても多くの方は「何も変わらない」といわれます。「頭痛がする」とか「しんどい」とか言われる方はまずいらっしゃいません。反対に「この方が楽だ」とか「元気になった」といわれる方もあります。一例として、50歳台の男性で、当院の近くへ引っ越しされてきたために来院された方ですが、それまでは2種類の降圧薬をお飲みになられており、血圧は120-130mmHgぐらいでした。そのため1剤を中止することを提案し、ご了承いただいただきました。そうしますと3か月ぐらいで血圧は150mmHgに上昇してきました。そこで私は「また降圧剤を2剤飲むように戻しましょうか」と申し上げたところ、「このままの方がいい」と言われました。なぜなら、この方は寒い時期にも海などに潜って作業されるお仕事につかれているのですが、「海から上がったときにこれまでよりも体が温かく、楽だから」とのことでした。
このように数字だけをみればご批判をいただくかもしれませんが、その方の生活において血圧を下げてお仕事や日常生活に支障をきたすようではダメだと考えます。
前に書きましたようにどういう目的でお薬をのんでいただくのでしょうか。私の答えはこうです。
「できるだけいつまでもお元気に日常生活を送っていただく」ためにお飲みいただくのです。
高血圧の方が引き起こしやすいとされる脳梗塞や心筋梗塞を、血圧を下げていれば引き起こしにくくなるのかもしれません。しかし一方で日頃の元気がなくなってしまえば、違う病気を引き起こしてしまう、病気にならないまでも日常生活に支障をきたすようではどうでしょうか。私のお出ししたお薬で「健康寿命が短くなった」では本末転倒です。
お薬を中止するには、「薬をやめて症状がぶり返すかも」「なにかの病気を引き起こすかも」という恐怖に打ち勝つ患者さんの勇気が必要かと思います。それとともに「お薬を止めましょうか」と提案させていただく私にも勇気が必要なのです。なぜならば世間では「血圧を下げましょう」「病気をぶり返さないためにもお薬を飲み続けましょう」という機運が強いので、それに逆らうことは大変ですし、もしお薬を中止、減薬して「何かが起こるのでは」と私も心配するからです。
未来を予見できる能力があればいいのですが・・・。
(追記)2025.2.28
ふと思いついたのですが、日頃に比べて気温が低い日があったとします。その時には厚着をしたり、上着を羽織ったりして寒さを避けようとすると思います。その後気温が普通に戻れば、余分に着ていたものは脱ぐでしょう。なぜならば暑くなって困るからです。これと同じように状況が変わればお薬もやめる方がいいという状況も生まれるかもしれません。