咳(咳喘息・気管支喘息・咽喉頭異常感症)と漢方薬・吸入ステロイド剤
「咳」がなかなか止まらないために来院される方がいらっしゃいます。毎日新聞の記事によりますと成人の10%に慢性の症状としてあるそうです。また「咳」が続く人に付けられる病名で一番多いのが「咳喘息」であるということを先日ある講演会でお聴きしました。
「咳喘息」とは葛西よこやま内科・呼吸器科クリニックのホームページから引用させていただくと
咳はひどくなると会話中の咳など日中(寒暖差や湿度の差が激しい時)にも出ますが、「寝る前」「深夜」「早朝」に最も悪化します。そのため咳喘息では夜中にひどい咳で起きることがあります。「季節の変わり目」「寒暖差」「運動」「喫煙(副流煙)」「雨天」「花粉」「黄砂」などにより増悪します。これらは喘息と同様、アレルギー性炎症による「気道過敏性の亢進」によって起こると考えられており、繰り返し起こることが特徴です。ただし喘息と異なり喘鳴(ぜいぜい、ヒューヒュー)は起こりません。そのほかの症状として、「のどの違和感(咽喉頭異常感)」を起こすこともあります。特徴的な所見はのどの異常感である「イガイガ感(痒い感じ)」と「しめつけ感」です。また前胸部(のど~気管のあたり)が重たいという症状で受診される方もいます。
と書かれています。私も以前これで非常に悩まされていた時期がありました。のどがイガイガして咳が夜中に止まらないために横になって眠ることができず、椅子に座った状態で眠らなければならなかったことが何度かありました。また暖かい室内から寒い屋外へ出た途端涙が出るぐらい咳きこんだり、また逆に寒いところから暖かいところへ入ると同じようになることがありました。ちょうどそのころ「咳喘息」という病名が言われるようになり(私が学生だった時代にはこのような病名はありませんでした)、私は「これだ」と思いました。治療としてはこの病名がつけば「吸入ステロイド剤」を使うとよいとされており、これは今でもそのようにガイドラインではなっています。そこで私は一生懸命吸入ステロイド剤を使用し、さらにはその当時良いとされている他の西洋薬も併用して「咳」が出ないように努めましたが、なかなか「咳」は良くなりません。ひどいときには半年ぐらい続いた時期もありました。そのころの私は全く漢方薬を使っておらず、西洋薬だけで診療していた時期でした。
西洋医学的には咳喘息の患者さんでは、「気管支が浮腫んだ状態になっているために咳が出る」という理屈になっています。その浮腫みは元へ戻る、改善することもありますが、浮腫んだまま治らないという状態の方もあるとされています。(こういう状態では「咳喘息」ではなく「気管支喘息」へ移行したとされると思います。詳しくは他のサイト等でお調べいただければ幸いです。) CT検査など確認されているので、浮腫んでいることは間違いないでしょうが、なぜ浮腫むのでしょうか。 アレルギーを引き起こす物質(アレルゲンと呼びます)を吸い込むと炎症が起こり気管が浮腫み気道が狭くなっているそうです。またアレルゲンを吸い込んで気管が過敏になるともされています。
ですので「吸入ステロイド剤」が効果があるとされています。でも私の場合はあまり改善傾向を示さない時期もありました。(吸入ステロイドで比較的早く改善したこともありましたが) そのような中で漢方薬の勉強を始めました。きっかけは「咳」を何とかしたいという理由ではなく、その他の病気、病態に対して何とかならないかと考えたためでした。そして現在に至っており、その間に様々な患者さんに出会い、いろいろと考え経験させていただきました。
その結果今では「咳」という症状が「気の巡りの悪さ」のために出るのだろうと考えています。気の巡りを良くすれば「咳」は改善、消失するし、それができなければ「咳」はなかなか止まらないということになります。そう考えると「咳」を止めるには漢方薬がなくてはならないものになりました。残念ながら味の問題などでお飲みいただけない場合もあり、そのようなケースの咳には難渋することもあります。一方で漢方薬をお飲みいただけて、かつ私の処方が的確であれば1か月以上も止まらなかった咳が、2-3日もすれば消失したというケースもあります。
このように考えると辻褄が合うことがあります。すごい咳が続いているときに、横になると止まらなくても、座ると少なからずでも咳はましになることがあったわけです。なぜでしょうか。それは気の巡りが体勢で変わるからです。咳が続くときの私の体は横になると気の巡りが非常に悪くなり、座ると改善気味もなっていたのだと考えます。気の巡りは1日の中でも時間帯によって変わるとされていますので、時間帯によって咳が出やすいことがあるのも納得できます。「上を向いたら咳が出る」など、一定の体の向きで咳が出やすいと訴えられる方がいらっしゃるのも説明がつきます。
咳は出ていなくても「のどが詰まった感じがする」、「イガイガする」という方にも出会います。「喉頭異常感症」という診断をされている方もおられます。このような場合も上記しましたように「気の巡り」を改善させることで良くなります。
吸入ステロイド剤は決して悪いお薬ではありません。現在の私の考えでは漢方薬をお飲みいただいてもなかなか咳が止まらない場合に追加でお出ししたり、またできるだけ早く咳を止めなければいけないような状況のときには初めから併用していただくこともあります。
漢方薬をお出しするようになった最近は、私は眠れないぐらい咳込むことはなくなりました。最後にもう10年以上前にその当時小学生だった男の子に「咳に漢方とステロイドの吸入、どちらが効くと思う?」と質問したところ、即座に彼は「漢方」と答えてくれたことをお伝えして終わりにしたいと思います。