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ワーファリンとDOAC(リクシアナ、エリキュース、イグザレルト、プラザキサ);頑固な私

[2025.02.19]

 「抗凝固剤」とは、血液が固まりにくくする効果があるお薬のことを言います。「抗血小板剤」といわれるグループのお薬も血液を固まりにくくする作用がありますが、体の中で働く機序が違います。どちらも「血液をサラサラにする」という表現で使われることがありますが、厳密には違うお薬です。

 

 今回は「抗凝固剤」についてのお話です。お薬の名前としてはワーファリン、リクシアナ、エリキュース、イグザレルト、プラザキサの5種類があります。後ろの4つはDOACといわれ、ワーファリンとは作用機序が違います。

 

 抗凝固剤はいくつかの病気の際に使用されます。代表的なものとして「心房細動」という不整脈の一種や、動脈硬化が進んで足の血管が細くなり、歩くと痛みが出る「閉塞性動脈硬化症」、血液の塊が肺の血管に詰まってしまう「肺塞栓症」などがあります。いずれの病気も血栓(血の塊)ができ、その結果脳梗塞になるのを防いだり、息苦しくなったり、痛んだりしないようにするために処方されます。高齢化が進むにつれこれらの病気の患者さん数は増えており、そのため抗凝固剤を服用している方も多くなっています。

 

 私が医者になってから20年余りは抗凝固剤といえば「ワーファリン」というお薬だけでした。このお薬は1976年から販売されていますので、私が高校生のときに世に出てきたわけです。それぐらい歴史のある薬です。それに対してDOACといわれる一群のお薬は2011年以降に発売されるようになりました。

 

 なぜDOACといわれるグループのお薬が開発されたかと申しますと、

①ワーファリンは納豆、青汁、クロレラなどの食物を一緒に摂ると効果が減弱するので、服用中はそれらの食品は摂取できな

 い。

②ワーファリンは一緒に服用する薬剤によって効果が減弱したり、増強したりするので注意する必要がある。

③ワーファリンの効果の発揮される量を飲めているか、また効き過ぎて出血などの副作用が出ないか定期的に血液検査でチェ  

 ックし、投与量の変更をときにする必要がある。

というような欠点(?)がワーファリンにはあり、それらを解消するためにDOACが開発されたと理解しています。つまり、あまり食品や他の薬剤の影響を受けにくく、定期的な採血をする必要がないのがDOACです。一見便利なお薬のように思えます。

 

 このような経緯の中で抗凝固剤の中でワーファリンを使われるケースがどんどん少なくなっています。下の図をご覧いただければお判りいただけると思います。

                     

                         2016年           2022年             日経メディカルより引用

 DOAC発売後5年余りでワーファリンは抗凝固剤として使われるケースが半分以下になり、最近では20%を切る位になりました。しかし私は原則としてワーファリンを使い続けています。その理由を以下に示します。

 

 まず、現在のところDOACは上記に示した「心房細動」「閉塞性動脈硬化症」「肺塞栓症」の患者さんには使用することができますが、「心臓弁膜症のために手術をし、人工弁を入れた方」には使用できません。(最近はこのような患者さんは減少傾向ですが) その理由は、研究段階でDOACではワーファリンのような効果を見出せなかったからです。このような方は抗凝固剤を使わなければ一番血の塊ができやすいとされており、厳重な抗凝固療法が必要とされています。 最も抗凝固療法が必要とされる症例にはDOACの効果が不十分だったと解釈しますが、そのようなお薬が心房細動などの他の症例ではワーファリンと同じように十分な効果を発揮するのでしょうか。(エビデンスでは差はないとされていますが)

 

 次にDOACの種類によって少し違いますが一律に同じ量を処方するというわけではありません。一例としてリクシアナでは           体重60㎏以下では30㎎、60kg超ではその倍の60mgを原則服用するとされています。そうなると体重59.9㎏と60.1kgの人で服用する量が変わることになります。それで59.9㎏の人も60.1㎏の人にも十分な効果が出て、かつ副作用も出にくいのでしょうか。効果不十分で血栓ができてしまっては問題ですし、反対に一番問題になる副作用はお薬が効きすぎたために脳出血をはじめとするする予期せぬ出血です。また腎機能が低下すると投与量を減らさなければならないのですが、血液検査で決められた境界線を境に、減らしたり増やしたりすることになっています。腎機能も毎日一定ではないように思いますし、この境界域の方にはどのように処方するのが良いのでしょうか。

 

 なんていうことを考えると、ワーファリンの方が安心してお出しできると思うのです。なぜならワーファリンは血液検査でPT-INRという項目を調べると、その方が今飲んでいるワーファリン量が適量なのか、過剰なのか不足なのかがわかります。この検査結果がある程度の範囲に入っていれば、血栓ができにくく、副作用である異常な出血もないと考えられます。

 

 当院では10人以上の方にお出ししていますが、現在ワーファリンの必要量が1.5mgから4.5㎎までの方がいらっしゃいます。痩せている方が投与量が少ないとばかり言えず、太っている方でも必要量は少なくてもいい方もいらっしゃいます。なぜこの方が多く必要で、反対に少なくてもいいのかを調べたことはないのですが確かに人によって違います。また同じ人でもときに必要量が変わります。また、高齢の方で飲み忘れや飲みすぎがあれば当然数値もおかしくなり、気づくこともできます。一人一人の状態に応じて投与量を考えることができるいいお薬だと思うのですが。

 

 幸せなことに、ワーファリンを処方させていただいている経験が少ないかもしれませんが、飲んでいただいていてこれまで副作用の予期せぬ出血をされた患者さんに私は出会っていません。一方で心房細動の患者さんに処方させていただいていて、脳梗塞を引き起こされた方を知りません。そのような中であるとき他院からDOACを処方されている方が、顔面を打撲されお岩さんのように顔面が紫色になって腫れた状態で来院されたことがありました。その方にお聴きしますと「DOACの内服量は変えなくていい」と言われていたそうですが、私はそれをみて「そうなんだ」と思うとともに心配になりました。「内服量を変える必要はない」という判断は間違っていないと思いますが、ワーファリンのように「現在の効果発現状態」を数字でみることができれば安心して患者さんにお話しできるのではと感じました。

 

 現実的にはワーファリンを服用される方は原則月1回採血しPT-INR値を検査させていただいています。そのための手間とお金を余分にいただいています。(採血するので痛みも少々あります) お金がかかることは申し訳ないですが、お薬の値段がワーファリンは1錠(1㎎)が9.8円ですので4錠飲んでも40円以下ですが、DOACで現在一番使われているリクシアナは30mg錠で411.3円、60mg錠で416.8円であることを考えるとどうなのかとも思ってしまいます。

 

 そんなこんなでDOACをお出しすることなく、ワーファリンをお出し続けている頑固な私です。間違っているのでしょうか? 納豆を食べない私だからこんなことを書いたのかもしれません。

 

(追記)2025.2.26

 この記事を書いた直後のお話です。

 

 95歳の一人暮らしの女性が先日来、腰痛のために来院が困難になってしまっていました。10年以上ワーファリンを服用していただいている中でPT-INR値は安定し、何年も投与量を変えていませんでした。が、今回2か月ぶりに採血させていただいたところ、PT-INR値がびっくりするほど高くなっていました。そのために4日間の休薬をしていただき、本日再検させていただくとちょうどいい値まで低下していました。そこで元通り服用していただくようにしました。これまで認知機能に全く問題ないと私は判断していたのですが、腰痛のため普段と同じ生活を送れなくなったためか認知機能が低下し、誤ってたくさんワーファリンを飲んでしまったことが原因であると考えています。そのため今後はヘルパーさんなどのお力を借りてこのようなないように努めたいと思います。何か起こってしまう前にPT-INRを測定することができて良かったです。

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