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「病名」って必要でしょうか?

[2023.08.30]

 みなさまが何らかの不調を訴えられて医療機関を受診される場合を想像して下さい。診察を受けられる前に「自分は何という名前の病気だろうか」とお考えでいらっしゃるとかと思います。「何という名前の病気」とは「病名」と言い換えることができます。咳が出る場合は「風邪?」「気管支炎?」ひょっとして「肺ガン?」なんて考えられることもあるでしょう。逆に不調を訴えられることもなく、検診で血液検査の数字が悪い、血圧が高いということで受診される方もあるでしょう。この場合は「高血圧」「高コレステロール血症」「糖尿病」などと受診前にご自身がお分かりの場合もあると思います。

 

 一般的には、西洋医学では「病名」がついて初めて薬が処方されます。言い換えると「病名」が付かない場合は処方薬が決まりません。これでは受診された方も困ってしまうでしょう。ですから我々医師はなんとか病名をつけようと考えてしまいます。(少なくとも以前の私はそうでした) しかしどう考えても病名がわからないことがあります。もちろん私が不勉強で病名がわからないこともあります。この場合はその分野の専門家とされる医師にご紹介させていただいています。

 

 ただときには「どういう病名か全くわからない」ケースの中には、初めから病名がない場合もあります。西洋医学ではまだ病名が付けられない、付けられていない場合もあるのです。

 

 「体がだるい」「やる気がしない」など、元気がない状態で来院される方もあります。またそのような状態を訴えられて他院を受診された後に当院を受診される方もあります。そのなかに「ACTH単独欠損症」と診断されお薬を飲まれているケースに出会います。なぜそのような病名が付くのかと考えますと、血液検査の結果血中のACTH(副腎皮質刺激ホルモン)値が低いためにそういう病名が付くのだと思います。(基準値よりわずかに低くてもそのように診断されている場合にも遭遇します) 低値ですからそのように診断されるのは当然といえば当然です。前に書きましたように西洋医学的に考えると、病名がないとお薬が出せないので、検査値に異常が見いだせた場合はそれに対してお薬を決めることができます。目の前に困っている患者さんがいらっしゃるので何とかして差し上げようとするのは当然のことで、何にもできないことは医療者として残念ですから、ある意味治療方針が決まるので我々も患者さんも安心できます。

 

 ACTH単独欠損症と診断された場合、ヒドロコルチゾン(商品名コートリル)というお薬が処方されることが多いですが、残念ながらこれを飲まれても状態が改善されない場合もあるようです。患者さんにとってそれはつらいことです。しかし検査でACTHの値のみ異常、あるいはそれに付随する、関連する検査値にも異常があればヒドロコルチゾンを処方され続けられることもあります。

 

 そのようなときに脈を触らせていただく(脈診)と、明らかに「おかしい」と気づくことがあります。この脈の状態を改善させて差し上げることができれば、その方の不調は改善する場合もあるのです。たとえ「ACTH単独欠損症」であってもなかっても。それもあまり時間がかからずに。

 

 「腰が痛みます」「寝ている間におしっこに何回も起きます」「冷えます」なんていう方が受診されたときを考えてみます。このような場合では「腰痛」「過活動膀胱」などという病名はついても、「冷え症」という病名は内科学の分厚い教科書を見ても何も書かれていません。そのため「冷え症」に対してのお薬は西洋医学的には処方されることはありません。恥ずかしながら私は以前「冷え症は体質だからお薬はなく、どうすることもできません」と患者さんに申し上げた記憶があります。とても申し訳ないことをしてしまいました。今なら何とかして差し上げられるかもです。

 

 「腰が痛みます」「寝ている間におしっこに何回も起きます」「冷えます」という訴えの中で、もし患者さんが「冷える」ことが一番つらいといわれた場合は、まずはそれに対して何とかして差し上げなければと思います。西洋医学では「ちんぷんかんぷん」です。しかし漢方薬を選択しようすれば、数種類の漢方薬の名前が浮かびます。それらの中で「腰痛」「夜間頻尿」にも効果あるのはないかと考えるとある種の漢方薬が思いつきます。まさしくそのお薬は一石三鳥です。

 

 「冷え症」という病名にはならないことに対しても何とかするのが私の仕事だと思っています。ですから「別に病名なんていらない、無理につける必要はない、なんとかできればそれでいい」「病名を無理につけようとするとかえって失敗することがある」と考えて日頃仕事をしているつもりです。

 

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