多くは加齢に伴うもので、耳が遠くなる「難聴」の裏返しの現象だと考えて下さい。耳が衰える一方で、脳の認知機能が音を拾おうとするために起きているのが耳鳴りという症状です。ある意味、白髪や薄毛のようなものだと言っていいです。人口の1~2割が経験しているとされていて、超高齢社会の訪れとともに、今後も増えていくとみられます。
――どう付き合っていけばいいのでしょうか。
残念ながら、加齢に伴う耳鳴りに特効薬はありません。「このまま耳が聞こえなくなるのではないのか」「頭がおかしくなりそうだ」といった悩みを抱えている人がいる一方で、そんなに気にしない人もいます。耳鳴りは個人の受け止め方次第で、苦しむ人と平気な人が出てきます。「まあ、年だから」くらいに受け止めて、気にしないで生活できるようになるということが耳鳴りと付き合う上で重要です。
――耳鳴りのある人は、日頃何を心がければいいのでしょうか。
疲れたり、ストレスがたまったりすると、人は身を守るため危機を早く察知しようと感度が上がります。このため耳鳴りもひどくなったり、気になったりします。自分の生活の環境やリズムを整えることだけでも、苦痛が和らげられる可能性があります。気になって眠れない場合には、音楽をかけたり一時的に睡眠薬を使ったりすることも考えられます。
――気をつけることは
加齢に伴う耳鳴りの多くは、両耳で徐々に現れてくるということが多いです。こうした場合はほとんど心配ありません。片方の耳だけで急に耳鳴りがするようになった時などは注意が必要です。突発性難聴や、メニエール病、聴神経腫瘍(しゅよう)などが隠れている場合もあります。まずは耳鼻科でしっかりとした検査をしてもらうことが大切です。
大きな病気が背景にある場合の耳鳴りもありますが、多くの場合は原因不明です。また、耳鳴りがありからといって、直接命にかかわる病気であるということも少ないです。そのような背景から「耳鳴りは白髪と同じ」と書かれているのかと思います。白髪と同じということは、治せないから仕方がないとされるのでしょうか。心配はなくてもうっとうしく不快に感じながら日々過ごしている方もいらっしゃいます。特効薬はないかもしれませんが、私には以下のような方に出会った経験があります。
①1週間に1回、頭皮に鍼を4-8本打ち、数ヶ月で10年以上続いた耳鳴りが消失した例、ただし、一 時期鍼を打たないでいると再発し、再開して打ち続けていますがまだ完全には消失していません。
②何の訴えか忘れましたが、一番困っている訴えを改善させるために漢方薬をお出ししたら「耳鳴り」までなくなってしまった例。その方が耳鳴りに悩んでおられることは全く知らず処方していましたら、ある時患者さんが「漢方飲んだら耳鳴り止まったわ。そんなの止まるとは思ってなかったので、言わなかったんや」とおっしゃられました。
③毎晩、耳鳴りがうっとうしいためにラジオを鳴らしながら床についていた方が頭皮に鍼を打つことで耳鳴りが消失し、その後再発していない例。
話は少し変わって日々の診療の中で「耳鳴り」というのは間違いではないのかと思うときがあります。「音」のように感じるので、耳を通じて感じていると考え「耳鳴り」と表現されているのではないでしょうか。しかし現実には耳で聞いているのではなく、頭で感じている、ですから「頭鳴り」と言うべきかもしれないのかもしれません。
いずれにしてもこのような経験がありますので、治療指針を読むと、「良い方法がない」と書かれているのでお驚き、寂しくもなったのです。耳鳴りもなんらかのアプローチで消失することもありますので、決して諦めないでいていただきたいのです。ただし、なかなか耳鳴りを消失させることは難しく実力不足を痛感することもしばしばです。
追記(令和1年8月30日)
①の患者さんは、8月に入り耳鳴りが完全消失しました。そのため、鍼治療は現在中断しております。今後再発されないことを願います。