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高プロラクチン血症と漢方薬

[2022.03.01]

 「高プロラクチン血症」という病気をご存じですか。私はある患者さんに出会うまでは知りませんでした。(ひょっとしたら学生時代には勉強して知っていたのかもしれませんが)

 

 まず、高プロラクチン血症についてお知らせします。(Medical  Noteより引用)

 

概要

高プロラクチン血症とは、プロラクチンと呼ばれるホルモンが血液中で異常な高値を示す病気のことを指します。脳自体の問題であることもあれば、薬剤が原因となるともあります。プロラクチンは本来出産後の乳汁分泌に関わるホルモンですが、高プロラクチン血症は出産とは関係ないタイミングでの乳汁分泌、月経不順、不妊などの原因になることがあります。

原因

高プロラクチン血症は、下垂体からプロラクチンが過剰に分泌されている状態をいいます。下垂体は、プロラクチンを始めとしてさまざまなホルモンを分泌する機能をもつ器官です。この部位にプロラクチンを産生する腫瘍が発生すると、高プロラクチン血症になります。

また、下垂体の近傍に頭蓋咽頭腫、ラトケ嚢胞などの異常構造物が生じることで、高プロラクチン血症が生じることもあります。この他、薬剤を原因として高プロラクチン血症が生じることもあります。具体的には、抗うつ薬や吐き気止め、胃薬、抗アレルギー薬などの薬剤の一部が原因となります。

症状

プロラクチンは、生理的には出産後の母乳分泌に重要な役割を担うホルモンです。そのため、プロラクチンの値が高くなると、出産とは無関係に母乳の分泌がみられるようになります。

その他、乳房の腫大や月経不順などの症状が認められることもあります。また、高プロラクチン血症は卵巣からの女性ホルモンの分泌を抑制するため、ホルモンバランスを崩し、月経不順になったり、排卵障害のために不妊症の原因になったりすることもあります。男性の場合には、性欲低下や勃起障害といった症状につながる場合もあります。

高プロラクチン血症が脳の下垂体近傍の異常をもとにして生じる場合があり、このことと関連して、頭痛や吐き気、目の見えにくさなどの症状が引き起こされることもあります。

 

検査・診断

プロラクチンが体内で異常に増えている状況を確認するために、高プロラクチン血症の診断には血液検査が行われます。また、脳の下垂体近傍の構造異常を原因として病気が引き起こされている疑いのある場合には、下垂体周囲のCTやMRIといった画像検査を行います。

下垂体近傍の異常においては、プロラクチン以外のホルモン異常を伴う場合もあります。合併する異常を検出する目的でその他のホルモンの血液検査が行われることもあります。

治療

高プロラクチン血症は抗うつ薬や胃薬などの薬剤を原因として引き起こされることがあります。そのため、高プロラクチン血症の患者さんには、まず、服用している薬剤の確認を行うことが重要です。原因となりうる薬剤を服用している場合には、原疾患の管理の上での必要性にもよりますが、可能な場合には原因薬剤の中止が求められます。

薬剤性以外の高プロラクチン血症では、薬物療法や手術療法、放射線療法などによって治療介入されます。もっとも一般的な治療は、薬物によってプロラクチンの産生量を抑制する治療法です。脳の異常構造物が原因の場合は、異常構造物をなくすために手術療法や放射線療法が選択されます。  

                                   (引用 終わり)

 

 

 その患者さんは風邪をひかれたときなどに時々来院されたことがあったので、お顔は存じ上げていました。そのような中で、ある日顔がパンパンに腫れた状態で来られました。手足にむくみはなく、なぜそのようになったのかはすぐには判りませんでした。そこで「何か変わった食べ物を食べたり、お薬を飲んだりされませんでしたか?」とお尋ねすると、「高プロラクチン血症」のためにお薬を飲んでおられるとのことでした。この方は脳のMRI検査で下垂体に腫瘍があり、そこからプロラクチンが異常に産生されており、そのため乳汁が産後でもないのに分泌しているとのことでした。

 

 来院時はお薬を飲まれていた結果、乳汁の分泌もなくなっておられました。(プロラクチン濃度は少し高めでした)しかし、顔がむくんだ原因がその薬だとしたら当然中止しなくてはなりません。そのため2-3日薬の服用をやめていただくようにお話しし経過をみることにしました。3日たって再診させていただいたところ、顔面のむくみは改善傾向であったために、薬の副作用であったことはほぼ間違いないと考えました。しかし中止すればそのうち乳汁分泌が再び起こってくることが予想されます。

 

 そこでどうするべきか考えましたが、プロラクチンを下げる方法は思い浮かびません。一方で、この方には「冷え」をはじめとする困った症状があったことより、それらを改善させるために何種類かの漢方薬をお出ししました。そうしますと、困っていた症状が徐々に無くなり、日々の生活を送りやすくなられました。もちろん顔のむくみも全くありません。

 

 そのようになった時点で、血中のプロラクチン濃度を測定しましたところ、なんと正常域にまで低下していました。これには驚きました。漢方薬が使われるようになった約2000年前にも、高プロラクチン血症のために異常な乳汁分泌があった方もおられたことでしょう。もちろんその時代にプロラクチン濃度など測定できませんでしたので、そのような診断を受けられた方はなかったでしょうが。その昔でも「何とかしてあげよう」とする気持ちから漢方薬をお出しして改善された方もいらっしゃったと思います。漢方薬でもプロラクチン濃度を下げることができたのです。

 

 なぜ漢方薬でプロラクチンが減ったのでしょうか。私の考えはこうです。「漢方薬で全身の状態を改善させうることができたならば、もっている自然治癒力のパワーが最大限発揮できるようになり、腫瘍を小さくしたり、プロラクチンの異常な分泌を減らしたりすることができるために改善するのではないか」と考えます。

 

 自然治癒力恐るべしです。日常診療でこの力を最大限利用することはとても大切で、それをそぎ取るようなことは決してしてはいけないと考えています。

 

(この内容については、5年以上前の症例で記録が残っていないために、記憶に基づいて書きましたので、間違っている部分があるかもしれないことをご了承ください)

 

 

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