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心拍数について ー「ゾウの時間 ネズミの時間」

[2019.09.03]

 「心拍数」とは、心臓が動く回数をいい、一般的には1分間に何回動く(拍動する)かを測ります。標準的には年齢によって差が少しありますが、1分間に50回から100回程度です。それ以上では「頻脈」といい、それ以下では「徐脈」といい、脈が乱れていなくてもときに治療が必要です。

 

 もっとも心拍数は絶えず変化しており、走った後や、緊張したときには増えて、1分間に100回を超えることもあります。これらは正常の反応です。

 

 呼吸数は自分で早く呼吸したり、ゆっくり呼吸したりすることができ、自分の意思で回数をコントロールできます。一方「心拍数」は、みなさまがおわかりのように、自分の意思では増やすことも減らすこともできません。それだからかどうかはわかりませんが、一般的な日々の診療で「心拍数」を気にかけていることは少ないように思います。

 

 しかし、私は心拍数をとても気にしています。その訳をこれからご説明します。

 

 それはいつの頃からか日々の診療で、みなさまの調子のいいときには心拍数は遅くなっていることに気づきました。(もっとも1分間に40回以下になるという病的な場合は除きます)「なぜなんだろう」と考えましたところ、このように考えました。

 

 人間の身体は基本的に決して無駄なことはしないはずです。すなわち、心拍数が少なくても問題ない状況のときに、それ以上に余分に数多く心臓が動くことはないと思います。すなわち心拍数は、「そのときにそれぐらいの回数を打たなければ体がうまく機能しないと体が判断する」ことによって決定されているのではと考えています。

 

 このことより、心拍数が少なくなるように日々の診療で努めることは、結果的にみなさまのお体の調子が良くすることに結びつくと思います。もし、心拍数が1分間に80回であった方が、60回になったならば、ともに正常範囲でありますが大きな違いがあると思います。たった20回と考えるかもしれませんが、心臓は絶えず動いています。1分間に20回違えば、1時間で20x60=1200回、24時間で1200x24=28800回、30日で28800x30=864000回、1年で1000万回以上余分に心臓が拍動することになります。

 

 こう考えると、心臓がかわいそうになります。1992年に 東京工業大学理学部生物学教室教授の本川 達雄 先生が「ゾウの時間 ネズミの時間」という本を書かれました。この本を読むと「哺乳類はどの動物でも、一生の間に心臓は20億回打ち、ゾウは心拍数が少ないので寿命が長いが、ネズミは心拍数が多いので寿命が短い」というようなことが書かれています。もっとも人間にそのことをあてはめると無理が少しあるようですが、確かに「機械も早く動き続けると、故障して早く止まってしまいそうになるのでは」と思うのは私だけでしょうか。

 

 今後も心拍数に気を付けて診療していこうと思います。


追記(2021.12.28)

 60歳代後半の男性が、あるとき糖尿病のために来院されました。糖尿病に関しては糖質制限のお話をさせていただき、今後それを基本に対応させていただくようにしました。その際、脈拍が1分間に100回以上であることに気が付きました。お話を伺っても、動悸や息苦しさなど頻脈傾向であることに関係するような症状は全くありません。念のために心電図をとらせていただきましたが、脈が早いだけで心電図の形など問題ありませんでした。また胸部レントゲン写真で心臓の大きさは正常範囲で、心臓の超音波検査でも心臓の収縮力は異常なしでした。

 

 そのため脈が早いことに対しては何もせず経過観察とさせていただきました。その後脈拍は多いままでしたが、著変なくお過ごしでしたが、半年ぐらいして「歩くと息苦しい」と訴えられるようになりました。そこで胸部レントゲンを撮影したところ、心不全の状態になっており、肺には水が少量貯留(胸水)しておりました。また心臓超音波検査では明らかに心臓のポンプとしての機能が低下していました。半年前には、心臓の収縮する力は正常だったのですが。

 

 そこで心不全の治療を行うと症状は改善し、困ったことなく日常生活をお送りいただけるまで軽快しておられます。今回のことで、以前症状が全くないにも関わらず脈拍が早かったということは、心臓が弱ってくる前触れを示していたと考えます。だから「脈拍には気をつける必要がある」と改めて感じさせられた例でした。

 

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