副腎機能不全(ACTH単独欠損症)
「副腎機能不全」という病名をお聞きになられた方はあまりいらっしゃらないかと思います。副腎とは、左右の腎臓の上にある小さな臓器ですが、この臓器はいろいろな大事なホルモンを分泌することで、健康を維持するために大切な仕事をしています。そのため副腎の働きがおかしくなると様々な症状が出てきます。
どのホルモンに異常があるかによって症状は異なります。また、副腎そのものに原因があるために発症する「原発性副腎機能不全」と脳内にある下垂体の異常で引き起こされる「二次性副腎機能不全」に分けられます。下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というものが分泌されているのですが、この量が少ないと副腎の働きが悪くなり「二次性副腎不全」といわれる状態となり下記のような症状が出てきます。
全身倦怠感、食欲不振、体重減少、るいそう、精神機能低下、低血圧、低血糖
(日本内分泌学会ホームページの「ACTH単独欠損症」から引用)
二次性副腎不全(ACTH単独欠損症)による上記のような症状を改善させるためには、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を服用していただくことが多いです。
今回はACTH単独欠損症(軽度)と診断され、ホルモン剤をお飲みになられている状態で来院された50歳女性のお話です。
5年前ぐらいから強い全身倦怠感などのために、大学病院等でいろいろと調べていただいた結果上記と診断され、2年前ぐらいからコートリルというホルモン剤を飲み始められたそうです。そうしますと確かに全身倦怠感はかなり軽減したそうですが、1回飲み忘れると倦怠感が3日続きとてもつらく、体重も20kgぐらい増えられたそうです。
そのような状態で来院されました。
さらにお話をお伺いすると、倦怠感以外に手がこわばる、ふくらはぎがとても冷える、一方で手のひら、足の裏がほてり、上半身もほてる、さらには口が渇く、便通も悪く市販の便秘薬を使って3日ごとぐらいに排便しているなどというさまざまな訴えがありました。これらの症状はコートリルをお飲みになられていても困っているとのことでした。また来院2か月前ぐらいから、コートリルを半量にされていたところ「めまい」も起こるようになってきたそうです。
これらの様々な症状は、東洋医学で考えるとその原因となる病態がそれなりに理解できます。そのためにいくつかの漢方薬をお出しして経過を診させていただくことにしました。そうしますと2-3か月で倦怠感だけでなく上記のさまざまな症状は徐々に改善していき、血液検査でもACTH値が正常となったようでホルモン剤を処方されている医師から「中止してもよい」とのご指示をいただきました。そうしますと中止直後から毎日体重が500gずつ減少しだしたそうです。最近では家事のみならずPTAでの活動も熱心にできるようになったとのことで、「このような日が来るとは思っていなかった」とおっしゃっていただきました。
この方はACTHというホルモン分泌量が減っていたことは事実で「ACTH単独欠損症」という診断は間違っていないです。そのようななかで、様々な体調の不良を漢方薬で改善させることができれば、その結果なのかホルモン分泌量も正常になり「ホルモン剤を中止できる」ということを示すことができた例ではないかと考えます。
追記(2023.7.21)
コートリルを中止して半年以上経過した時点で血中ACTH値を測定してみました。結果は12.5pg/mlと正常範囲内でした。現在も症状も特になく順調に経過されていると思います。
追記(2024.2.27)
上記の患者さんはその後もお元気で過ごされています。
一方、ときどきACTH単独欠損症と診断されたという方から電話でのお問い合わせがあります。「どのような漢方薬で改善したのですか」という質問が多いのですが、残念ながら決まった漢方薬ですべての方が改善されるということは難しく、その方の状況によってお薬の種類が変わります。ですからご質問いただいた患者さんのご期待に添えることはできないのです。そのためお住いの地域で漢方薬について造詣が深い先生方にご相談されることをお勧めしています。
昨年末に新たにACTH単独欠損症と診断された方が来院されましたが、漢方薬でしんどさが4/10ぐらいになってきたとおっしゃられています。使っている漢方薬は決してめずらしいものではなく、よく使う漢方薬を2種類お出ししているだけです。もっともそれらをインターネットで検索されても「ACTH単独欠損症」に効果があるという記載は見つけられないと思います。ではなぜそのようなお薬を選択したかと申しますと、漢方を処方させていただく際にする診察方法でその漢方薬が良いと判断したからです。
まだ完全にだるさがとれたわけではないので、だるさが無くなるまでお手伝いできればと思います。
追記(2024.4.24)
1年以上前、中学2年生の女の子が「朝起きられない、しんどくて学校へ行けない、勉強もできない、大好きだったクラブ活動(ブラスバンド部)もできない」という状況で来院されました。その時点で大きな病院も受診されており、血液検査ではほとんど異常がない中でコルチゾール値が正常値よりわずかに下回っており、「ACTH単独欠損症疑い」とのことだったようです。その後違う病院を受診されACTH値は正常範囲に保たれておられたために、特に治療されることなく経過観察を指示されたようです。
ただ、この子は「学校へ行きたくてもしんどくていけない」と訴えるのです。これまでは勉強も嫌いではなく頑張っており、クラブの朝練にも参加していたような子供さんでした。経過観察で良くなればそれでいいわけですが、少しでも早く元の日常生活に戻してあげたいと思います。「起立性調節障害」との診断で一時期メトリジンなどが処方されていましたが改善はありません。
漢方医学的に診察させていただくと、ある意味幸いにおかしな所見がいくつかありました。幸いというのは、もし診察させていただいて異常に思える所見がなければお出しする漢方薬を決めにくくなるからです。そこで、その所見からいくつかの漢方薬を処方し経過を診ていましたところ、2か月後には遅刻するようなことがあっても登校できるようになり、3か月後には普通の生活(勉強、クラブ活動、家での勉強など)を送れるようになり、この春には希望の高校へ進学することができました。
このケースではACTH値は正常ですので「ACTH単独欠損症」という診断にはならないと思いますが、このようなケースは他にもあるように思いますのでご報告させていただきます。
追記(2024.10.23)
本日、上記の50歳代の女性が3か月ぶりに来院されました。以前から「もうそろそろお薬が不要じゃないですか」とお話ししていましたので、お薬を中止して様子をみておられたようです。それでも調子が悪くなく経過されていたようで、来院された理由は3か月前に測定したACTH値の結果をお聞きになられたのです。結果は「26.8pg/ml」と正常範囲内でした。このこともあり、今後は投薬なしで観ていただくいただくことといたしました。全快と言っていいのかどうかは今後によって変わりますが、まずはよかったです。