糖尿病治療における医師の責任(糖質制限食の可能性)
糖尿病の食事療法の一つである「糖質制限食」を広めることに尽力されている京都 高雄病院の江部康二先生が
お書きになられた文章を、ご了解をいただきましたので以下に引用させていただきます。
私はよく、「自分の頭で考えて、判断して、選択しよう」と言います。
しかしながら、この文言、「言うは易く行うは難し」の典型なのかもしれません。
でも、その度に、ハンナ・アーレント氏と杉原千畝氏のことを思い起こします。
かなり前ですが、毎日新聞朝刊の、「火論」を読みました。玉木研二氏の書いた記事で大変、興味深いものでした。
以下は「火論」の要約です。
・・・・・・・・・要約ここから・・・・・・・・・・
東京・岩波ホールでの劇映画「ハンナ・アーレント」の上映初日、風雨にもかかわらず、1回目から満員だった。
ナチ戦犯アイヒマンを裁く法廷シーンでは、実録フィルムでアイヒマン本人が登場し、この効果が大きい。
アイヒマンはユダヤ人を貨物や家畜のように扱い、死地へ追いやる強制収容所移送を指揮した元親衛隊幹部である。
敗戦後に逃亡して、変名でアルゼンチンで暮らしているところをイスラエル情報部が急襲、1960年5月11日、逮捕した。
エルサレムの法廷でこの初老の男は時にいらだちをのぞかせ繰り返し弁解した。
「私は命令に従ったまでです」「それが命令でした」「すべて命令次第です」「事務的に処理したのです」「私は一端を担ったにすぎません」「さまざまな部署が担当しました」
亡命ユダヤ人の哲学者ハンナ・アーレントは裁判を傍聴し、そこに「平凡な人間が行う悪」を見いだす。
人間的な思考を放棄したものが空前の残虐な行為をなすおぞましさ。
アイヒマンは学業不振などで学校は続かず、20代で親衛隊に入隊した。
やがてユダヤ人移送担当となり、実績を上げて評価される。
思考の力を失い、機械的に命令や職務権限を果たしていく凡庸な軍人、官僚。
それがホロコースト(大虐殺)を遂行可能にする動力ともなる。
彼にとって犠牲者数は統計上の数字にすぎない。
映画はアーレントの洞察(アイヒマンを極悪人とみなすのではなく、極普通の小心者で取るに足らない役人に過ぎなかったとする見解)に対する社会の非難と、それに屈しない彼女の毅然とした姿を描き、心を打つ。
そして、アイヒマンの機械のように冷たい、どこかぼんやりしているような風情も不気味に残る。
彼は極めて特異な例外的存在なのだろうか。
今日も世界に絶えない大規模な破壊行為だけでなく、社会の組織的な大きな過ちや錯誤にもその小さな影を見ないだろうか。
61年12月15日死刑判決。
「この日エルサレムは雨と風がひどかったにもかかわらず、傍聴人席は超満員だった」と外電は伝えている。
・・・・・・・要約ここまで・・・・・・・・・・・
ごく普通の小心者の小役人のアイヒマンらが、上の命令に従って思考放棄して、結果としてホロコーストの動力となってしまったわけです。
この時、自分の頭で考えることができる人が何%かいたならば、ホロコーストは阻止できたのでしょうか?
この話から、杉原 千畝(すぎはら ちうね)氏を思い起こします。
第二次世界大戦中、リトアニアのカウナス領事館に赴任していた杉原氏は、ナチス・ドイツの迫害によりポーランド等欧州各地から逃れてきた難民たちの窮状に同情。
外務省からの訓令に反して、大量のビザ(通過査証)を発給し、およそ6,000人にのぼる避難民を救ったことで知られています。
杉原千畝氏の場合、たった一人の人間が、自分の頭で考えて判断し、外務省の命令を無視し、大量のビザを発給して、6000人のユダヤ人の命を救ったのです。
さて、「火論」の玉木研二氏も「社会の組織的な大きな過ちや錯誤にもその小さな影を見ないだろうか」と指摘しているように、「ごく普通の人達が、思考放棄して、社会や会社や地域の支配的な勢力に従ってしまうことで、結果として過ちや錯誤を犯してしまう」
日本でも世界でもそのような構造があると思います。
例えば人種差別などもその典型です。
また糖尿病治療の現状を冷静にみると、まさしくそれと同様の構造が認められます。
すなわち、「食後高血糖」「平均血糖変動幅増大」が最大の酸化ストレスリスクで、それを生じるのは、糖質を摂取したときだけであり、蛋白質・脂質摂取では生じません。
これは議論の余地などない、生理学的事実です。
そして「食後高血糖」「平均血糖変動幅増大」を防げるのは糖質制限食だけです。
これほど明白な生理学的事実があるのに、多くの糖尿病専門医は、思考放棄して、支配的勢力(日本糖尿病学会)の推奨するカロリー制限食(高糖質食)を、そのまま盲目的に受け入れています。
まさにハンナ・アーレントのいう「平凡な人間が行う悪」そのものです。
1)「カロリー制限・高糖質食」を唯一無二の食事療法として押しつけ、今ここにリアルタイムにある危機 「食後高血糖」と「平均血糖変動幅増大」を毎日3回以上生じさせることは合併症発症の大きなリスクである。
2)10年、20年間の長期的安全性・有効性に関するエビデンスがないのは、日本糖尿病学会の推奨する「糖尿病食(カロリー制限・高糖質食)」である。
3)米国糖尿病学会が2019年4月に発表した「コンセンサス・レポート」において、「糖質制限食は2型糖尿病で最も研究されている食事パターンの1つ」と明言し、一推しで推奨している。
すなわち、糖質制限食の有効性・安全性に関しては米国糖尿病学会のお墨付きがある。2020年、2021年、2022年、2023年のガイドラインにおいても同様の見解である。
4) 短期的にリアルタイムに酸化ストレスを生じる高糖質食の危険性を予防する方が、優先順位ははるかに高い。
5) 短期的な安全性が確保されて、はじめて長期的安全性が確保される。
1)2)3)4)は自分の頭で考えさえすれば、誰でもすぐにわかることですね。
自分の頭で考えることを放棄した多くの医師によって、日本では、食品交換表第2版(1969年)以来今日に至るまで50年にわたって、カロリー制限・高糖質食である「糖尿病食」が、唯一無二の食事療法として推奨・指導されてきました。
その結果、現時点で「食後高血糖」「平均血糖変動幅増大」のために、
糖尿病腎症からの人工透析が16000人/年以上
糖尿病網膜症からの失明が3000人/年以上
糖尿病足病変からの足切断が3000人/年以上
発症しています。
これが偽らざる日本の現状です。
高糖質食の弊害が、これ以上ないほど明確に証明されています。
糖質制限食なら、「食後高血糖」「平均血糖変動幅増大」はないのでこれらの合併症は生じません。
医師という責任ある職業の方々は、自分の頭で考えることを放棄して、支配的勢力の意見にに盲目的に従うこと自体が罪であると私は思います。
以上引用終わり
江部先生は「決して糖質制限食を患者さんに押し付けるのではなく、患者さんが主体となって一緒に考え、どのような食事療法を選択するかが大切だ」とおっしゃっています。我々の大事な仕事は「糖質制限食のことをお知りになられない糖尿病患者さんに糖質制限食をお教えする」ことです。たしかに糖質制限食は食費が上がる傾向になります。物価高が叫ばれる今日では大きな問題かもしれません。また食べ物の嗜好的に糖質制限食が許されない方もあるでしょう。ですから患者さんが選択されればいいのです。ただ糖質制限食をとり入れれば、お薬や注射を減らすことができる可能性が大きくなります。患者さんから血糖値の変動が小さくなるためか「身体が楽になった」と言われることをよく経験します。
インターネットなどでいろいろな情報を集めやすい現在ですが、「こういう食事療法もありますよ、どうされますか?」と、糖質制限食を頭から否定するのではなくお話しできるのが当たり前の時代になればいいと思います。