「がん検診 不利益に目を」という新聞記事を読んで
先日「がん検診 不利益に目を」という題目で書かれていた新聞記事を読みました。(毎日新聞 9月17日 朝刊に掲載分)この記事は国立がん研究センター 特任部長 中山富雄さんが書かれていました。
内容にとても共感したところがありました。まず題目の後に「がん検診は安全だから、何度でも受けた方が良い。そう思っている人は多いかもしれない。しかし、『がん検診のプロ』である中山富雄・検診研究部特任部長は、意外にも『検診の不利益にもっと目を向ける必要がある』と注意を促す。不利益とは一体何か、検診を受けるうえで、どのようなことに気をつければよいのだろうか。中山さんに聞いた。」と書かれていました。(以下青字は引用した部分です)
本文の中を一部抜粋し、私の考えを交えて以下ご紹介します。
「検診のメリット(利益)とデメリット(不利益)は何でしょうか」という質問に対しては「がんの早期発見につながり、検診を受けた集団でがんによる死亡率を減らせることが利益です。一方、検診や精密検査に伴う事故、放射線被ばく、放置しても問題がない進行の遅いがんを見つける『過剰診断』といった不利益もあります。がんでないのに、がんの疑いをかけられる『疑陽性』もその一例です。」と答えておられます。私はがん検診だけでなく、健康状態に問題のない方が受けられる職場での健康診断、人間ドックなどの血液検査の正常範囲もあまりに厳しすぎると感じることが多いです。変に勘ぐってしまって「どれだけ病気の人を増やそうとしているのか」と思ってしまうこともあり、また精神的、経済的負担を考えるとどうなんでしょうか。
「疑陽性」の問題についても詳しく書かれていました。
「例えば、乳房エックス線撮影(マンモグラフィー)で、乳癌の疑いを指摘された女性を1年間追跡した米国の研究があります。不安気質で、後の精密検査で「がんではなかった」と診断された女性では、生活の質(QOL)はがん患者と同じか、それ以上に低下し、長期にわたって損なわれました。がんが否定されたのちも「周りが本当のことを言ってくれない」「このままでは手遅れになるのでは」とさらに落ち込んでしまうのです。
健康のためにがん検診を受けたのに、かえって心を病んでしまう人を生み出すことがあるのです。疑陽性社の精神的負担にもっと目を向けるべきです。
世界では、検診による不利益をできるだけ減らすため。生涯に受ける検診の回数を減らし、毎年ではなく数年に一度にするといった流れになっています。
とのことです。「へー、世界はそのような傾向になっているんだ」と驚きました。
また実際日本でも「2025年に改定した肺がん検診のガイドラインには、受診者の年齢に上限が設けられました。」ということです。具体的には79歳までは検診対象になったようです。詳しいことはわかりませんが、「80歳以降に肺がん検診を受けてもメリットがなかった、死亡率などを下げることができなかった」ということだと推測します。
肺ガン検診として胸部レントゲン撮影が代表的ですが、これだけでは不十分と考え、胸部CT撮影を組み入れている施設もあります。検診の一番の目的は早期発見による肺がんの完治だと思いますが、検診で小さな肺がんを発見できたとしても、残念ながら完治させることができない場合もあります。見つかったことにより、肺癌に対して治療を開始し、残念ながらその過程がつらいものになってしまい最期をむかえられた方もあります。何の症状もない中で受けた検診である場合、その肺がんが大きくなって症状が出るまでには何年という期間が必要であった場合もあるかもしれません。
被ばくに関しても、胸部CT撮影の際の被ばく量は普通のレントゲン写真撮影の100倍以上ということもあり、頻回に受けることには問題がありそうです。検診ではなく病気の経過観察で、ときには3か月に1回CT検査をされている患者さんにお会いすることがありますが、放射線被ばくによる悪影響はないのかと心配になります。もちろん、何か新しい異常が見つかって手遅れにならないようにしようというお考えも理解できますが。
健康な高齢者が増え、「検診をいつまでも受け続けたい」という人が昔に比べて多いように見受けられます。ただ世界では受診年齢に上限をつける国が多いです。例えば、大腸内視鏡検査を高齢者が受けると、腸に穴が開く事故のリスクがあります。高齢者ドライバーの免許返納問題と同じです。「自分にも事故が起こるかもしれない」と思えるかどうかが大切です。
「最後に個人の判断で「任意型検診」を受ける際に気を付けるべきことは何でしょうか。」という問いに対して
ガイドラインで推奨していない検診を任意で受けるのは個人の自由です。米国では、医師やスタッフとよく相談するようにと決められています。ただ、日本の人間ドックや職場検診では相談窓口が十分ではありません。周りから強制されるのではなく、利益と不利益を理解したうえで検診を受けることが大切です。
と答えられていました。いずれにせよ「ご自身で判断されることが大切だ」ということは理解できますが、「難しい」というのが現実だと思います。