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江部洋一郎先生の辞書には「どうしようもない」という言葉はない

[2023.10.17]

 ナポレオンが「余の辞書に不可能という言葉はない」と言ったということを、一度はお聞きになられたことがあるかと思います。

 

 私が現在のように漢方薬をたくさんの方にお出しするようになった経歴の中で、たいへんお世話になり、いろいろとお教えいただいた先生方が何人もおられます。その中のお一人が京都の高雄病院の元院長の江部洋一郎先生です。(残念ながら数年前にお亡くなりになりました)

 

 何も知らない漢方薬について勉強を始めたころ、漢方薬の処方を考える際の診察方法として「脈診」というものがあると知りました。西洋医学でも患者さんの脈を触れさせていただく機会はありましたが、その目的は脈拍を数えることと、脈の乱れがないか調べるぐらいでした。一方、東洋医学では「脈診」という診察方法があり、それによって身体の調子を推し量ることができる、結果お薬の種類を決めるのです。何冊かの漢方に関する本を購入して読みましたが、本を読んだからと言って脈を触るわけではなく全く理解できません。そのため一時期「脈診」がわかるようになることは難しく断念した時期がありました。

 

 そのような中で、江部先生は「脈診の大家」であられることを知り、幸いにも先生の外来診療に陪席させていただく機会をい持つことができました。その当時は漢方薬のことをほとんど知らない「草野球選手」レベルの私でしたが、江部先生の高雄病院はアメリカメジャーリーグで、そこの院長先生であられる江部先生はスーパースターでいらっしゃったわけで、ある意味とんでもないことを私はお願いしたわけです。(もっともそれは陪席しだしてからわかったわけですが・・・)

 

 その当時の思い出です。

 

 高雄病院は京都にありましたので、京都大学病院や京都府立医科大学付属病院に通院されている、通院されていた患者さんが受診されることも多々ありました。難病といわれる病気の方も多くいらっしゃいましたし、どういう状態かはっきりわからないような、病名が付かないような病気(?)状態(?)の方もいらっしゃいました。

 

 ある時のことです。確か京大病院に通院されている患者さんが「『京大ではどうしようもない』と言われました」とおっしゃられたことがありあした。そうすると江部先生が「『どうしようもない』て言えたら楽でいいなあ、俺は言うことができない」とおっしゃられたのです。そうなんです、江部先生は患者さんに対してなんらかの手段を絶えずお持ちなのです。このお言葉を聞いたときは衝撃でした。

 

 それ以後私は「『どうしようもない』と決して言わないようにしよう」と心に決めたのでした。しかしうまくいかなくて、「どうして差し上げればいいのだろう」と自問し続けている患者さんがいらっしゃるのが現実です。

 

 最後に、何も知らなかった私にいろいろとお教えいただいた江部洋一郎先生にこの場でお礼を申し上げます。        「ありがとうございました」

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