「よく眠れるようになる漢方薬ありませんか?」(漢方の睡眠薬?)
日頃漢方薬をお出しして診療をしていますと、ときに「よく眠られるようになる漢方薬はないですか、不眠症に効く漢方薬はありませんか?」と質問されることがあります。そのような質問をされる患者さんは、日頃なんらかの症状、困ったことに対して漢方薬をお飲みになられて、その効果を実感しておられるからこその質問だと理解し、「漢方薬の良さを分かっていただいているのだ」と解釈して心で喜んでいます。
それでは「漢方薬で睡眠薬」と呼ばれるものはあるのでしょうか。答えは「あるような、ないような」です。
私が日頃から漢方薬をお出しするのは、突き詰めて言うなら「普通の人になっていただくためにお出しする」ということです。決して「スーパーマン、スーパーウーマン」になっていただけるようなことはできません。「普通の人、健康な人」とはどういう人でしょう。私は「快眠、快食、快便」の人だと考えています。すなわち普通の人は夜になると眠れて、朝になるとすっと起きられる人です。(お仕事の関係などで夜間に動かれている方は当てはまりません)
歴史的に見て穀物栽培がまだ行われていなかった採集狩猟生活の古代では、明るくなると食料を探しに出かけなければ食べ物にありつけなく死んでしまいます。一方夜になれば真っ暗で何も見えませんし動物に襲われても困るので、明るい間に何とかしなくてはならなかったことでしょう。
ですから本来の人間は「暗くなったら寝る、明るくなれば起きる」というリズムの中で生活していました。寝つきも良く、途中で目覚めることもなく、朝すっきり起きられるのが「快眠」です。
それでは快眠できない原因にはなにがあるのでしょうか。部屋が暑すぎる、周りがうるさくて眠れない、寝る部屋に夜でも街灯やネオンなどの明かりが差し込むときも眠れないのは当然ですが、寝ている間に何回も排尿に起きていしまっては快眠にはなりません。足が冷えて眠りにくいという方も冬場にはおられますし、現代では「クーラーの冷えで眠れない」と夏場に訴えられる方もあります。睡眠環境を整えるお手伝いは私にはできませんが、夜間尿の回数を減らしたり、冷えをましにしたりすることはできる可能性が高いです。その結果「快眠」になるのではと思います。
また不安感が強く眠りにくい方もおられるでしょう。不安を引き起こす原因にもよるかもしれませんが、不安を感じる程度を小さくする漢方薬もあります。その際には西洋薬の抗不安薬、睡眠薬などのように寝る前にだけ飲んでいただくようなことは原則しません。朝夕に2回、、もしくは朝昼夜の3回に分けて飲んでいただきます。なぜなら、漢方薬は無理やり眠らせようとする作用を持っているのではなく、普通の人と同じようになる、前にも書きましたように「暗くなったら眠る、明るくなったら起きる」というリズムに戻すのが目的ですから朝からも飲んでいただくわけです。それで「日中眠くなって困る」というようなお話を私は聞いたことがありません。
このようなことで「漢方薬に睡眠薬と呼ばれるようなものは、あるような、ないような」です。