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多発性単神経炎(多発性単神経障害)、オピオイド鎮痛薬(非麻薬;トラマール、トラムセット、ワントラム、ツートラムなど)について

[2024.07.18]

 「多発性単神経炎」という病気があります。MSDマニュアルを参照させていただくと、体のいろいろな部分で痛みが発生して、それらにはそれぞれ違う神経が関与している、言い換えると「ある一つの神経が原因ではない」と考えられる病態です。

 

 ここで私には二つの疑問が湧いてきます。

 

 まず一つ目は「痛み」というものは常識的には神経で感じているとされていますが、本当なのでしょうか。神経以外で「痛み」を感じることはないのでしょうか。もしあれば「神経炎」という病名すら怪しくなってきます。最近味を腸で感じたり、耳以外で音のようなものを感じたりと、体のいろいろな部分がいろいろな働きを持つことを知り、常識とされることにとらわれてはいけないと思っています。

 

 また私は日頃の診療で患者さんが痛いといわれる部分、範囲が、神経の走行とは関係ないものの、東洋医学でいわれる経絡の走行にぴったり当てはまるケースを何例も経験しています。経絡の走行しているといわれる部位と同じように走っている神経はありません。もっとも経絡をみたこともありませんが。

 

 もう一つの疑問は、これらの痛みはバラバラな原因で発生しているのでしょうか。「ひょっとしたら一つの原因で発生しているのかもしれない」という疑問です。

 

 少し違うお話をします。見かけはとても立派なきれいな住宅があったとします。しかし、その家のキッチン、リビング、トイレの窓が開けにくくなっている場合を想定します。そうしますと当然それぞれの部屋の窓が開きにくい原因をその部屋ごとに探って直そうとするでしょう。それで一旦直ったように見えても、すぐにまた開きにくくなったとしたら、なぜそうなるのか、まして同時に違う部屋の窓が開きにくくなるのは「なぜなんだろう」と考えると思います。

 

 そのためにいろいろ原因を探して、その住宅の基礎に白アリが発生して基礎がわずかながら傾き、そのために家全体がわずかながら傾いていることを見つければどうでしょうか。そのときにはその基礎を修繕して家の傾きを修正するでしょう。その結果、いくつかの窓が開きにくくなった不具合が治るかもしれません。完全に治らないまでも、基礎を直してみることが大前提だと思います。

 

 話を戻します。

 

 大きな病院に短期間に2度入院、検査の結果「多発性単神経炎」と診断され治療を受けておられる方が来院されました。当院来院時は「トラマール」というある種の痛み止めを服用されていました。オピオイド鎮痛薬に含まれる「トラマール」とはどういうお薬でしょうか。「非麻薬性鎮痛剤」とされていますが、日本癌治療学会のホームページの中の「がん診療ガイドライン」の中から抜粋させていただきますと

❶ オピオイドとは

オピオイド(opioid)とは,麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイドおよびモルヒネ様活性を有する内因性または合成ペプチド類の総称である。

紀元前よりケシ未熟果から採取されたアヘン(opium)が鎮痛薬として用いられ,19 世紀初頭には,その主成分としてモルヒネが初のアルカロイドとして単離された。

とあります。「非麻薬性」とされていますので、麻薬ではないようですが、オピオイドではあるようです。そこの意味合いがよくわからないのですが、麻薬に近い薬剤のように私には感じます。

 

 歴史的に見ますと最初はガンのために痛む場合(癌性疼痛)にだけ処方されるお薬でしたが、その後ガン以外の痛み(慢性疼痛)に対しても用いられるようになりました。 私はこのようなお薬を一度もお出しした経験がなく、どのように効果を示すのかを全く知りません。この方の場合は飲めば痛みが軽減するものの時間がたつとまた痛みがぶり返し、再び服用するという状況での来院でした。恥ずかしながらそのとき「多発性単神経炎」という病名を知りました。

 

 「トラマール」は痛みを軽減させる効果はあるようですが、痛みの原因を治すお薬ではありません。痛みがあることは不快で苦痛でしょうから、飲みたくなるのは自然なこと思います。痛みがぶり返しても、連続で飲むことは望ましくないため、ある程度時間がたつのを待って1日3-4回飲まれていたようです。一方、副作用として嘔気、便秘、眠気などが知られています。

 

 最初診察させていただいたときに「どのようにすればこの方の苦痛をとることができるのか」思いつきませんでいたが、痛み以外に困っていること、普通の人とは違っていることをお聴きするとともに、漢方医学的にお身体を診させていただくといくつかの問題点が出てきました。そのために漢方薬を処方させていただき、さらにほかの手段も使って様子をみさせていただくようにしました。

 

 結果トラマールを飲まれる回数が徐々に減少し、2-3か月たった時点で全く飲まなくても日常生活できるようになられました。もっともまだ少しの痛み、しびれはときに出現しますが気になるような程度ではないようです。

 

 「神経がどうだ」とかは考えずに、「身体全体のバランスを良くしよう、普通のお身体に戻そう」、家でいうと「基礎を固めよう」とすることで、原因不明とされた、体のいろいろなところに出現する痛みが消失し、トラマールを飲まずにすむ状態までになられました。このことからこの方の痛みはそれぞれの部位での神経に異常をきたしたのかもしれませんが、その大元に何かあり、それを漢方薬等で改善させることができた結果、痛みが軽減したと考えます。

 

 この方が「一生トラマールを飲み続けると思っていました」と言われたときには心の中で「ああ、よかった」と思った次第です。

 

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